【第1回】
「言語の違い」よりも「文化の違い」
を認識しよう

公開日: 2016年4月26日火曜日

外国人患者、増えていませんか?


 皆さんの歯科医院には、外国人患者は来院しますか?
 「最近、増えてきている」と感じることはありませんか?

 法務省のHPに掲載されている「在留外国人統計(旧登録外国人統計)」によると、2015年12月末現在、在留資格のある外国人総数は2,232,189名で、2014年と比較すると11万人ほど在留外国人が増加しています。
 その内訳を見ると、アジアだけで10万人増加し、ヨーロッパ、アフリカ、北米、南米、オセアニアで残りの1万人を分けているようです。

法務省 在留外国人(旧登録外国人統計)統計表


在留外国人総数上位100自治体(総務省統計局のデータより)

 同「在留外国人総数上位100自治体」を見ると、やはり東京の自治体が多いものの、下町や住宅地、ベッドタウンと呼ばれる自治体も多数見られます。
 ざっと見るかぎり、歯科医院数も多そうな自治体名ばかりが並んでいますが、皆さんの開業地はこの上位100自治体に含まれていませんか?




JR大久保駅すぐの外国人向け商店

 筆者の開業地は、在留外国人総数1位の自治体である東京都新宿区の、大久保に次いで2番目に外国人登録者が多い街・新宿区百人町です。

 百人町の人口の約3割は外国人登録者で占められ、旅行者や外国人登録をしていない人を含めると、百人町の人口の半分程度は外国人が占めているように思います。
 その内訳を見ると、もっとも多いのは中国人であり、次いで韓国朝鮮人、ネパール人、ミャンマー人、インドネシア人となっています(2015年12月1日現在)。


 このような外国人の多い百人町で歯科医院を開業してはや16余年。私の歯科医院には、多数の外国人患者が来院します。
 16年も経営していると、楽しいことばかりでなく、想像を超えるトラブルもたくさん経験しました。ただし、そのトラブルも原因・理由がわかると納得できるものが多く、外国人患者に対する歯科治療について多くの学びを得ることができました。

 ポイントがわかると、トラブルに対する準備(心構え)ができ、慌てることなく対応できます

 グローバル化と言われるようになって久しい現在、普通の歯科医院に普通の外国人が当たり前のように来院する時代もすぐ目の前にきていることでしょう。

 このwebコラムでは、筆者が日々の臨床で学んだ外国人患者とのやりとりのポイントを紹介することで、来る外国人患者とのトラブルを最小化するお手伝いをしたいと考えています。




言葉の壁は、それほど高くない


 外国人への歯科治療というと、やはり『言葉の壁』が気になります。
 事実、いろいろな方から「外国人患者が来院する場合、治療のやり取りなどは英語で対応することが多いのですか?」と聞かれます。
 これはおそらく、英語という言語が、日本も含めて英語圏以外の外国人も学校で習う機会が多く、世界の多くの国で使われている言葉なので、外国人とコミュニケーションを取るのに便利な言葉であるという先入観があるからでしょう。

 しかし、私自身は英語をほとんど話すことはできませんし、当医院に来院する外国人も、フィリピンやマレーシアのような英語圏以外の外国人はあまり英語が得意ではありません
 また、英語圏以外の外国人患者のうち、日本で生活をしている人については、英語よりもむしろ日本語のほうが上手に話せる場合が多いと思います。

 しかし、そうはいっても治療の細かい内容などを日本語で説明して、一度で容易に理解できる外国人患者は多くありません。
 また、一時的に旅行などで日本に来ている外国人患者の多くは、ほとんど日本語を話すことができません。

 このような日本語のコミュニケーションが取りにくい外国人患者の場合、私はインターネットのホームページ無料翻訳サービスや、東京都が行っている無料通訳サービス(英語、中国語、韓国語、タイ語、スペイン語に対応)を利用しています。
 これらのサービスでほとんどのケースは対応できますので、外国人患者だからといって特別困ることはないと言えるでしょう。

エキサイト翻訳サービス
東京都保険医療情報センター(ひまわり)
※ひまわりは都内の医療機関向けサービスです


歯科受診にも現れる文化の違い


 外国人患者の治療について感じることは、言葉の違いよりもむしろ文化の違いからくる歯科治療への期待や要求などが異なることです。

 日本は国民皆保険制度のもとに健康保険内での歯科治療では使用する材料が決まっていますが、このような制度がある国のほうが世界では少ないことは皆様もご承知のことと思います。
 いろいろな国別の期待や要求度の違いなどについては、いずれお話しする機会があれば詳しくお話ししようと思いますが、外国人患者全般的に言えることは、メタル修復を嫌う方が多いことです。これは、メタル修復する歯科治療が母国にないことからくる自然な反応ともいえそうです。

 しかし、「何がなんでもメタルは嫌だ」という訳ではなく、「治療費が安ければメタルでよい」という方もいますので、ケースバイケースと言えそうです。


最初にルールを伝えることが大事


 日本人は日本の文化や習慣に基づいて生活をしていますが、外国人は、それぞれの国の文化や習慣が異なります

 ゆえに外国人患者については、日本の健康保険制度のシステム(窓口負担金や健康保険証の取り扱いなど)や、当医院独自のシステム(予約制であることや治療費の支払いにキャッシュカードは不可であることなど)について、明確に伝えておかないとトラブルになることがあります。

 健康保険証について一例を挙げると、「初診月に提示していて変更もないのに、なぜ翌月になったらまた提示しなくてはいけないか」などと聞かれます。たしかに合理的ではないと言えるかもしれません。しかし、「日本の健康保険法に基づいて決まっている」ということを説明し、「健康保険の範囲内の治療を望む以上は必須のことである」と説明すれば納得をします。

 多くの外国人患者について言えるのは、日本人のような『阿吽の呼吸』でお互いを推し量るようなことはほとんど通用せず、はっきりと言葉や文字で意思表示をしなくてはならないことでしょう。
 逆に言うと、はっきりと医院側が意思表示を行って外国人患者が納得すれば、同じトラブルを再度繰り返すことがなくなると言えます。


次回は、『外国人患者さんへの保険診療』について解説いたします。

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