【第2回】
外国人患者への保険診療

公開日: 2016年8月1日月曜日





増えている保険証を持っている外国人



 皆さんの歯科医院に、外国人患者は来院しますか? 
 また、以前よりも『健康保険証』を持参して来院する外国人患者が増えていることに、お気づきでしょうか?
 
 平成24年7月9日から、外国人に関する登録制度が改正されたことに伴い、外国人の国民健康保険への加入要件が変更になりました。
 住民基本台帳法の対象となり、住民票が作成された外国人住民は、勤務先等の健康保険に加入している人を除き、国民健康保険に加入しなければなりません。
 制度の改正前は、「1年以上の在留資格がある」または「客観的な資料等により1年以上日本に滞在すると認められる」ことが加入要件でした。
 しかし改正後は、

  • 3か月を超える在留資格がある

または

  • 在留資格が「興行」「技能実習」「家族滞在」「特定活動」の方で、客観的な資料等により3か月を超えて日本に滞在すると認められる

ことが加入要件になっています。


 私が開業している東京都新宿区は外国人居住者が多い地域であり、以前は健康保険証を持たない患者さんが多くいました。しかし、最近は旅行などの一時滞在以外で日本に住む外国人患者については、保険証を持っている人のほうが多くなりました。
 皆さんも、実感として感じることはないでしょうか?


外国人には理解できない健康保険システム


 外国人にとって、日本の健康保険システムには不思議に感じる点がいくつかあるようです。

 第一の点は、健康保険が国の社会保険制度の下で、私企業の組合や共済組合が運営する社会保険と、職域団体の組合や市町村などの自治体が運営する国民健康保険とに分かれている点です。
 外国によっては、生涯変わらない社会保障番号を個人に割り当てて管理をする国もあります。日本のように社会保険を脱退して国民健康保険に加入した場合、保険証の変更が不合理だと感じる外国人は多いようです。

 第二の点は、公的な本人確認証であるにも拘わらず、顔写真や指紋認証などの個人識別が乏しい点です。
 保険医療機関を受診した場合、有効な健康保険証を提示すれば健康保険適用の治療を受けることができます。しかし、この提示された健康保険証が本当に本人のものであるかどうかの判別は、顔写真や指紋認証等による本人確認が取れないため、確実に行うことができません。これは、他人の保険証を不正使用することはないという性善説の下に健康保険証が交付されているからかもしれません。それゆえ、次のようなことが往々にして生じてしまいます。


なりすまし受診は起こりうる。だからこそチェックを!


 外国人患者の中には、他人の健康保険証で医療機関を受診してはいけないということを知らずに、友人や親族の保険証を持参する人や、上記のように確実な本人確認を行えない点を悪用して、他人の健康保険証を持参して受診する人がいます

 当医院でも、他人の保険証を持参して不正受診しようとした外国人が数名いました。
 事情を知らないで来院した人もいれば、悪意を持って来院した人もいます。
 いずれにしても、他人の保険証の不正使用は、貸した側も借りた側も詐欺罪に問われますので、医療機関が共謀したと疑われないよう、事前にチェックすることが大切です。

 事前のチェック方法はいくつかあります。


<問診票と照らしあわせてみる>
 まず、健康保険証に記載されている名前、性別、生年月日が、患者さんに書いてもらった問診票のそれと一致するか確かめましょう
 自分の個人情報を書き間違えることは一般的にありませんので、異なる記載がある場合は『なりすまし受診』の可能性があります。
 健康保険証の生年月日は日本の元号(昭和、平成等)で記載されているので、問診票の記載が西暦表記になっている場合もチェックが必要です。


<口頭で年齢を確認する>
 次に、実際の年齢を口頭で確認し、記載された生年月日と同年齢かを確認しましょう
 不正受診する人は、借りた保険証の名前や生年月日等の情報を記憶している場合もありますので、実際の年齢と照合することで二重チェックすることができます(冒頭イラスト参照)。

 とはいえ、すぐさま年齢と生年月日が一致するか計算するのは面倒です。
 そんな時は、インターネットの年齢計算HPを活用します。
 たとえば以下の『いま、何歳?』に保険証に記載されている生年月日を入力することで、今日現在の誕生日をすぐに知ることができます。

※年齢計算HP『いま、何歳?』

 なお、外国人患者への年齢確認は、日本語で行っています。


* * * *

 なりすまし受診は外国人患者に限ったことではありませんが、外国人患者の方が日本人患者よりも多いと感じます。
 問題を未然に回避するためにも、外国人患者の場合の健康保険証のチェックと本人確認は入念にすることをお勧めします。
 そして、なりすまし受診がわかった場合は、すみやかに最寄りの警察署へ連絡しましょう。

次回は、『外国人患者への自由診療』について解説いたします。


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